宿泊

古城




 気がついた時には見知らぬ駅にいた。

 金曜の夜の解放感に誘われて深酒しすぎたようだ。

 今までも何度か電車で乗り過ごしたことはあったが、折り返しの電車がまだある駅か、悪くてもタクシーで帰れる範囲だった。
 しかし、今回はどうやら相当先まで来てしまったようだ。近年のベッドタウンの郊外化に伴い、最近の通勤電車は驚くほど遠方まで走っている。

 改札はひっそりとしていて人影もない。
 時計を見ると日付は翌日になっている、どうやら終電は間違いないようだ。

 駅前は灯りらしい灯りもなくタクシー乗り場もない。

 (さて・・どうしたものか・・)

 明日は休みということもあり気持ちに余裕もあった俺は散策気分でゆっくりと歩き出した。

 郊外の住宅地の趣はなく、歩き出すとすぐに周りは木立に囲まれた。

 疎らな街灯を頼りに木立を抜けると湖が現れた、見上げれば満天の星空だ。

 (きれいなところだな・・)

 湖から見渡すと山の中腹に灯りが見える、どうやらホテルのようだ。

 (行ってみるかな・・泊れればもうけものだ)

 山道を30分ほど登りホテルの入口にたどり着いた。

 ヨーロッパの古城を思わせる上品な風格がある。

 (ラブホテル?・・まあ、とりあえず入ってみるか) 

 俺は深呼吸を一つすると静かに入口の扉を開けた。

 「いらっしゃいませ」

 年配の紳士がフロントで恭しくお辞儀をする。

 「あの・・今から泊れますか?」

 「これはこれは、立花様、ようこそいらっしゃいました」

 「えっ、どうして私の名前を?」

 俺は一瞬驚き戸惑いフロントの紳士を見つめた。

 「はい、立花様は12年前、こちらにお泊り頂きました、ちょうど七夕の日でした」

 「えっ・・覚えてないです」

 「まだ、社会人になりたての時でいらしゃいました、だいぶお疲れで電車を乗り過ごされたとか」

 「信じられません、そんな昔のことを覚えてくださっているなんて、感激です」

 「とんでもございません、一度でもお泊りになった方は忘れないのがホテルマンの誇りです」

 「でも、すごいですね、その記憶力」

 「あの時、立花様はうちの子犬が川に落ちたのを助けて下さいました、覚えてていらっしゃいますか?」

 「いえ、全く」

 「朝、散歩に出かけられる矢先のことでした、あの時はありがとうございました」

 「いえ、全然覚えてなくて・・」

 「ほら、お礼を言わなくちゃ」

 紳士が目をやると控室から白いテリアが現れ、俺の足元にじゃれつくとクーンと鳴いた。

 「もうすっかり老犬です、でも覚えているんですね」

 俺はすっかり温かい気持ちになり、テリアを抱きかかえた。

 テリアは再びクーンと鳴くと俺の鼻をペロっとひとなめした。

 「もう遅い時間でございます、どうぞごゆっくりお休みください」




 「というわけなんだよ、ちょっと不思議な話だろ」
 
 「ああ」

 「それから、何だか運が良くてさ、このあいだロト7も当てたし、今月は昇進だ」

 「えっ、まさか、億!!」
 
 「いや、3等」
 
 「それでも、100万くらいだよな」
 
 「うん」
 
 「すげーよ、それ、何だかおとぎ話みたいだな」

 同僚の真崎に話すとあいつは目をぎらつかせて聞いたきた。

 「俺もそのホテルに行ってみたいな・・場所教えてくれるか?」

 「ああ、構わないよ」

 俺は真崎のぎらついた目にちょぴり不安を覚えたが、別に泊りに行くこと自体は何も問題はないと思いそう答えた。




 3日後の金曜の夜、真崎はホテルの前に居た。

 
 「こんばんは」
 
 「いらっしゃいませ」
 
 「あの、今晩泊まりたいんですけど」

 「これはこれは、真崎様」

 「俺のことが分かるんですか」

 「ええ、真崎様がまだ子供の頃のことでございます、ご両親と一緒に当ホテルにお泊りになられました」

 「覚えてないよ」

 「一度でもお泊りになった方は忘れないのがホテルマンの誇りです」

 「この間泊った立花に聞いたんだ、ここに泊まると運が良くなるってな」

 
 フロントの老紳士は少し考えたのち軽く笑みを浮かべてこう告げた。

 「真崎様、もしかすると誤解されていらしゃるかも・・」

 「どういうことだ?」

 「当ホテルでは一度お泊りになられたお客様のその後をすべて記録しておりまして・・」
 
 「・・・」

 「真崎様のその後をご確認いたしますと・・」

 紳士は手元に目をやると小さくうなずき、再び真崎を見つめ返した。

 真崎は一瞬体をこわばらせ、次の言葉を待った。

 「22歳の時に車でひき逃げをしておられますね、確かまだ捕まっていらしゃらない・・」
 
 「えっ」

 「25歳の時の窃盗、魔が差したのでしょうか」

 「おいおい、ちょと待ってくれ!」

 「現在は確か不倫中で、経理の肩書を利用してかなりの額の横領を継続中と・・」

 真崎は真っ青になってこう伝えた。

 「おい、宿泊はキャンセルだ、すぐに俺は帰る!」

 「かしこまりました、それでは当ホテルの規約といたしまして、これらの罪に相当するご不幸をお持ち帰りいただくという事で・・」

 真崎はもはや半べそで半分パニックになりながら叫んだ。

 「勘弁してくれ!このホテルはいったいどんなホテルなんだ!!」

 
 紳士は笑みを浮かべると恭しくこう告げた。

 「ごく普通のホテルでございます、ただ、宿泊されたお客様がどうやら愛称をネットなどに書き込んでいらっしゃるようです」

 「どんな?」

 紳士は静かにこう告げた。

 
 「何でも、こぶとり爺さんの館とか・・・」  




ホテル














※ 作品の画像の中には自分で撮影したもの以外にネット上からお借りしたものがあります、問題があればご指摘ください、削除したします。





.04 2017 小説 comment4 trackback0
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