約束(再掲)

 君とは旅先で出会った。
 大学二年の夏。

 静かなペンションの読書ルームで君は本を読んでいた。
 僕は何とはなしに声をかけた。
「天気がいいのに出掛けないんですか?」
 君は少し驚いたように答えた。
「ええ」

 君は心臓の病気を抱えていると言った。
 僕は驚いた、なぜって・・僕も同じ病気を抱えていたからさ。

「名前は?」
「まひろ、あなたは?」
「僕は優一」

 僕らは意気投合した。
 ペンションのテラスで、パラソルの中、好きな本について話した。
 夜は星空の下、お互いの夢について語り合った。
 わずか三日間・・でもそれはそれは楽しい時間だった。

「明日帰るの」
「僕もだ」
「ねえ、約束してくれる?」
「何を」
「あたしたち、元気だったら、来年の今日ここで再会するの」
「うん、でもメールだって電話だっていつでもできるじゃないか」
「ううん、あたしの心臓いつどうなるかわからないし・・」
「・・・」
「途中でいなくなったら悪いから・・もし、元気だったら、きっと来る」
「わかった」
「じゃ、指切り」
「ああ」

 僕らは小指をからませてお互いの携帯で一枚ずつ一緒の写真を撮った。

 あれから一年が過ぎた。

(あっ、あの子かな)
 僕は写真を取り出す。
(間違いない)

 ペンションの読書室に座っている彼女を見つけた僕は声をかけた。
「まひろ・・さん」
 彼女は振り向くと優しく微笑んでみせた。
「約束・・守ってくれたのね」
「うん、元気そうだね」
「優一さんこそ」

 僕らは一年前の出来事を確かめ合うように話した。
「懐かしいね」
「ええ、懐かしいわ」
 それからこの一年の近況も。
 昼はベランダのテラスで・・
 夜は星空の下で・・
 そして翌日、二人は「約束」をして別れた。


「おい『優二』、どうだったんだ、上手くいったか?」
 悪友のカズだが今度ばかりは感謝している、オレ一人じゃどうしていいかわからなかったんだ。
「大丈夫だったよ、でもちょっぴり罪悪感があるかな・・」
「いや、これでいいんだよ、彼女『だって』いつ病気が悪くなるかわからないんだろ、優一みたいに突然・・」
 カズはうつむいて声を小さくした。
「優一の最後の頼みだったんだ、彼女との約束を果たしてくれって」
「ああ、それをお前は果たした、彼女の気持ちを傷つけずに済んだんだよ」
「彼女、気づいてたのかもしれないな、やっぱり話が噛み合わなかったりしたし」
「そんなことないよ、お前たちほど似てる双子をオレは見たことがない、声までそっくりだ」
「そうか・・そう思うことにするよ」
 
 優二は心の中でつぶやいた。
(優一・・・約束、果たしたぞ)


 母親とふたりきりの夕食の前、「彼女」は仏壇の位牌の横に写真を戻し、胸の前で静かに手を合わせた。

(まひろ・・・ 優一さん、とてもいい人だったわ)

「ちひろー ご飯よ」
 
「はーい」

 振り返ると白い壁に掛けられた一枚の額縁、その中にはもみじのような4つの手形。

「8月20日 誕生 福原まひろ・ちひろ」



指切り



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.11 2016 小説 comment1 trackback0

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もぐら
こんばんは。
再掲 ありがとうございます。

さとる文庫 明日12日10時ごろに配信予定です。
なにかありましたらご連絡ください。
すぐに対処いたします。
どうぞよろしくお願いいたします。
2016.06.11 00:57

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