ターミナル

地下鉄入口


 神無月

 秋は微かな気配からその姿をしっかりと現し、道行く人々のコート姿が色づき始めた街路樹に自然と溶け込んでいる。

 「だいぶ寒くなってきたな」

 勇二はすっかりと黄昏た空を見上げながら家路を急ぐ。

 『お誕生日おめでとうございます 美味しい鍋が待ってます』

 妻からのメールをもう一度読み直す。
 こんなに早く帰れるのは久しぶりだ、今日は二人の子供たちと家族そろって食卓が囲める、勇二はささやかな幸せに感謝した。

 高層ビル街を歩いていると地下鉄の入口を見つけた。

 (あれ、こんなところに入口あったかな?)

 ビルの谷間に光る「METRO」の灯りは勇二を誘うように輝いていた。

 (最近できた入口だろう・・)

 勇二は吸い込まれるように階段を下りて行った。

 予想以上に長い階段を下り切ったとき、勇二は何か違和感を覚えた。
 人の気配がないのだ。

 (まだ、六時前だよな・・)

 静かに続く地下通路に勇二の靴音だけが不気味にこだました。

 ようやくたどりついた改札は・・無人
 自動改札にパスをかざす
 何事もないように扉は開いた。

 ホームへと続く階段を下りた時、勇二は一瞬目を疑った。
 まばゆいばかりの光に包まれたホーム、しかし、それは日頃の見慣れたホームではない。
 頭端式のいわゆる終着駅のホームだ。

 「ここ、どこだ?」

 思わず声に出す、だが、これだけ広い駅に人の姿は全くないのだ。

 「吉田勇二さんですね」

 声に振り向くとそこには制服にコートを羽織った大柄の男が。

 「車、車掌・・さんですか」

 勇二がそう口にしたのは男のいでたちが「銀河鉄道999」の車掌をイメージしたからだ。

 「いえ、駅長です」
 「駅長さんですか」
 「はい」
 「ここは、どこなんでしょう?どうやらいつも使う地下鉄に乗ろうとして道に迷ったらしくて・・」
 「ターミナルですよ、地下鉄の」
 「ターミナル・・」

 駅長を名乗る男は機械的に、だが優しげな表情でそう伝えた。

 「今日は40歳のお誕生日で」
 「えっ、どうして?」
 「おめでとうございます」

 その時だ、警笛音とともに電車がゆっくりと入線してくる、電車は左の1番線に停まる。

 「今日はお乗換えができる日です」
 「えっ、乗り換え?」
 「はい、20年に一度のお乗換えです」

 男は優しげな表情のまま、されど機械的に続けた。

 20年ごとにお乗りになる電車を選ぶことができるのです、覚えていませんか、20歳の時」

 勇二の頭を小さなショックが走る・・

 「思い出しましたか?」
 「いや、何となく・・おぼろげに・・」

 「あなたは選んでお乗りになったんですよ」
 「何の電車に・・・ですか?」
 「人生です」

 勇二の記憶が少しずつ蘇る、そうだ!今から20年前、オレは確かにここにいた・・

 「1番線の電車の行先は波乱万丈」
 「波乱万丈」
 「その先に大きな成功が待ち受けています、それは富か名誉か名声か、そのかわりリスクも大きい、失敗して路上で生活する、若くして命を落とす、そんな支線も数多く分かれています」

 その時、2番線に別の電車が入線してきた。

 「2番線の電車の行先は平凡」
 「平凡・・」
 「大きな成功という駅には停まりません、そのかわり、大きな失敗のリスクも少ない」
 「それで、オレは?」
 「あなたは20年前に選んだんです」
 「どっちを?」
 「2番線を」

 (そうか、そうだったのか)

 勇二はこの20年を思い返した、大学を出て、仕事に就き、結婚をして子供にも恵まれた・・傍から見れば幸せな人生と言えるだろう、だが、平凡と言われれば平凡だ、毎日を淡々と過ごして、何かに夢中になるといったこともなかった。最近ふと思うことがある、このままあと20年、同じように勤め、定年でリタイアする自分が簡単に想像できる。何か燃え上がるような熱い毎日を過ごしてみたい・・そんな思いが頭をよぎることがあった。

 「お乗換えになりますか?」

 その時、音もなく3番線に電車が滑り込み停まった。
 車内に灯りがついていない・・真っ暗だ。

 「3番線・・20年前はなかったような・・」
 
 雄二は恐る恐る尋ねてみた。

 「あちらは・・・車庫に入ります」
 「車庫・・」
 「ご希望ならば乗車も可能ですが・・・」

 駅長は少し暗い顔つきに変わり、さびしそうにつぶやいた。

 1番線か2番線か・・
 目の前に新たな人生の電車が停まっている・・・
 そして、今日・・オレは選び直せるのだ・・

 勇二は悩む

 「家に帰れば温かい鍋と家族が待っているじゃないか、こんな幸せを下手すれば失うんだぞ」
 「たった一度の人生だ、このまま平々凡々の毎日で満足なのか?勝負してみろよ」
 「平凡が一番なんだ、幸せは失ってはじめてわかるんだ、駅でのたれ死んでもいいのか?」
 「失敗を恐れて成功の可能性を捨てるのかい?人生の成功の切符は挑戦じゃないのか」

 頭の中で2つの声が交互に囁く・・
 まるで悪魔と天使の声のように。

 「間もなく発車の時間です、お決めになりましたか」

 駅長は優しげな表情で残酷な決断を迫った。

 勇二は目をつむり、俯き、じっと考える・・

 やがてゆっくりと顔を上げた。

 「はい」

 1番線 2番線 3番線

 それぞれのホームに発射のベルが鳴り響いた。

 「では・・」

 駅長が手を差し出し、勇二を促した。

 勇二は自動改札におもむろにパスをかざす。

 入口の扉が開く。


 勇二は改札を抜けると光り輝くホームへ向けてゆっくりと足を踏み出した・・・

 やがて発車をつげる警笛音が・・・




青い地下鉄





※ 作品の画像の中には自分で撮影したもの以外にネット上からお借りしたものがあります、問題があればご指摘ください、削除したします。





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.06 2015 小説 comment2 trackback0

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尾道貴志
sado jo 様

こんにちは

「量子論」とは難しい・・

小学生の時、東京の地下鉄の乗りつぶしに挑戦しました。
その時、とある駅で見つけた駅のホームにある防火用水と桶

(ここは江戸時代か・・)と不思議な感覚に陥ったことを思い出し、このお話のモチーフとなりました。

昔の駅は古くて趣がありました。

今の駅は近代的過ぎて・・

コメントありがとうございました(^^)
2015.10.08 01:36
sado jo
量子論で言う「可能性の世界」ですね^^
二つに分岐した世界の中にそれぞれの自分がいるが、観測可能なのは一方だけ…それが人の限界であり、ジレンマでもある。
人が何かを選択する度に、世界は分岐を繰り返し、時空の中には無数の自分、無数の世界があるそうで、それらは因果の鎖で繋がっている…今、そんなテーマを元に小説を連載してます♪
2015.10.07 14:03

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