予言

 ある繁華街の場末、裏通り。

「空いてるかな」
「どうぞお座りください」

「占ってもらえるかい」
「もちろんですとも、私は易者ですから」

 20代だろうか、まだ青年といった風貌だが、一つだけ・・違和感を感じたのはその和服姿にあったのかもしれない。まるで明治の書生のようないでたちだが、映画やドラマのそれと違って、立派ではなくヨレヨレといった印象である。

 高度成長も行き着き、時代は好景気に華やかなりしころ、街の雰囲気にはいささか場違いな姿であった。

「何を占いましょうか」
「オレの仕事を当ててみてくれ」
「なるほど・・・」
「見事当てたら、易料は倍はずむよ」

 易者はあごひげに手をやりながら青年の顔をじっと見つめた。

「おそらく・・・作家さんでは」
「その通り!見事だ!あんたは名易者に違いない」
「今の時代・・そんな和服姿の方はめったにいませんよ、噺家か相撲取りか芥川龍之介の生まれ変わりか」
「面白いこというな」
「それで、何かお悩みで?」

 青年はボサボサの頭をかきむしるようにしてすがるように訴えた。

「推理作家を目指して10年、未だにデビューすらできない、オレはもう陽の目を見ることはないんだろうか」
「なるほど・・では、両手を」

 易者は青年の両手をしげしげとながめる、時間にすれば1分以上にもなったであろうか。

「お客さん、非常に面白い手相をしておられる・・ほら、この運命線、年齢からすれば丁度30歳くらいから・・私も易を始めて10年、お客さんと同じくらいの若造ですが、こんなに太い運命線は見たことがない。この先きっと成功なさることでしょう」
「本当かい!ありがとう、うそでもお世辞でも元気が出たよ」
「決して、うそなんかではありません、ただ・・」
「ただ?」
「30年後、運命線はこれまた見事に切れている・・」
「60で死んじゃうってことかい?」
「いや、生命線ではありませんので、でも、運気は尽きるとの見立てで」
「わかったよ、易者さん、じゃぁ偶然出会えたことに握手だ」
「ええ」

 青年が易者の掌を両手で持ち上げた瞬間。

「おい、易者さん、あんたの手相、今オレに言ったのとそっくりじゃないか」
「そうなんです、だから尚更驚きましてね」

 易者の占いは当たった。
 青年の書いたミステリーは見事に新人賞を受賞。
 彼が次から次へと紡ぎだす「替え玉殺人」のトリックは読者からも評論家からも絶賛を浴び、シリーズはベストセラーの常連となった。
 一方、易者の方も「当たる」と口コミから広がり、いつ行っても行列ができる人気となった。、マスコミにも顔を出し、時の人としてもてはやされることも珍しくなかった。

 
 それから30年。
 ある冬の夜のこと。

「空いてるかい」
「どうぞお座りください」

「占ってくれるかい」
「いらっしゃると思ってましたよ」
「やあ、あんたの占いは見事だったよ、オレのこの30年はあんたの占いのおかげだ」
「いえいえ、お客さんの実力です」
「あんたも、手相通りだったじゃないか、よくテレビで見たよ」
「そうですね、そして今日いらしたのは・・」

 初老になった男は泣き笑いしながら易者の顔を見た。

「ご存じの通りだ・・オレの作家としての運命は終わった・・これまたあんたの占い通りだ」
「実は私もです、何しろ私たち、瓜二つの手相をもっているわけで」

「そうだったな、非科学的なものは違法・・占いは今日を最後に法律で禁止になるんだったな」
「ええ、先生もさぞかし先進科学をお恨みでは」
「ああ、DNA鑑定なんぞ、クソ食らえだ」
「替え玉殺人トリックはもはや過去の遺物ですか」

 二人は泣きながら笑いあった。
 しかし、その顔は決して悲しげではなくおだやかでさえあった。

「占って差し上げましょう」
「ああ、頼む」
「出ました、今日は私と一緒に飲みに行くと出ています」

 易者の言葉に男は涙をぬぐい笑顔でうなずいた。

「世の中って、わからないこととかあやふやなこととか、そんなものがあるから素敵だと思うんですよね」
「オレもそう思うよ、何でもかんでも分かっちゃ夢も色あせるってもんだ」

 易者はテーブルと折りたたみ椅子をたたむと袋に入れた。
 男はその袋を易者から奪うと左手で背中に背負い、右手で易者の肩を組んだ。

「さあ、行くか」
「今夜は思い切り飲みましょう」
「おお」
「法律と科学の悪口を肴に」
「いいね」
「それからもうひとつ」
「何だ」

「私たちの新しい旅立ちを祝って」

 
 空には細く黄色い三日月が二人を控えめに照らしていた。




猫易者





※ 作品の画像の中には自分で撮影したもの以外にネット上からお借りしたものがあります、問題があればご指摘ください、削除したします。


関連記事
.01 2014 小説 comment6 trackback0

comment

尾道貴志
miss.key さんへ

今回、ネタを考えていた時にずっと心にためていたことがあって、それが

「DNA鑑定がこれだけ進歩するとたいていのトリックは通じないからミステリー作家は困るだろうな」

というものでした。

最近だと新幹線の発達でトラベルミステリーも成立しないのでは・・

さあ、どうする 西村京太郎!

そんな疑問を形にしたのが今回のお話です。

「容疑者Xの献身」も死体はホームレスのものを替え玉に使ったので、本当はすぐバレるはずなんです。

最後に残るのは「人間の心理」を使った作品

東野圭吾の「白夜行」のようなミステリーは普遍的でいつまでも古さを感じさせないものになっていくでしょう。

あんな作品が書けるといなぁ(^^)
2014.11.02 00:06
尾道貴志
Sha-La さんへ

小さい頃に占ってもらった記憶があって
35歳くらいまでは順風・・そのあとは波乱・・
そう言われたんです。

これが当たってまして
37歳で転職して・・それからはまあ色々と

この先どうなっていくのでしょうか
まあ、流れるままに人生を泳いでいきましょう
みなさんと知り合えたことに感謝して(^^)
2014.11.01 23:53
尾道貴志
きりぎりす さんへ

わざわざこちらにもおいでいただき感謝です(^^)

江戸川乱歩の世界は僕も大好きなんです。
少年探偵団シリーズから始まり、あの独特の雰囲気と昭和初期の背景に魅せられます。短編小説に秀作が多いですよね。

「二銭銅貨」はご存知ですか?
「心理試験」も好きですね。
そしてあの傑作「鏡地獄」を初めて読んだ時の衝撃!

他の皆さん方の小説ブログにおじゃますると毎日更新されている方も数知れず。
僕は遅筆でこれくらいのペースがやっとなのです。

物語をお書きとのこと
このあとうかがいますね。

よろしければバックナンバーもお読みいただけると嬉しいです(^^)

コメントありがとうございました。



2014.11.01 23:46
miss.key
 DNA鑑定を逆手にとった替え玉ミステリーが在りましたね。「容疑者Xの献身」でしたっけ?作家さんにはやはりDNA鑑定すら欺くトリックを考えて欲しかったですね。
 一方、非科学的なものは禁止と言うなら宗教を禁止しないといけないわけで、ちょっと不公平かなぁ。
 とは思うものの、そういう不条理がまかり通るのが世の中と言う奴で、それに翻弄されるのが悲しいかな庶民。
 でも、それでも明るく生きていく二人。強いなぁ。がんがん悪口言って酔っ払っちゃってください。明日にはまた法が変わるかもしれません。
2014.11.01 23:11
Sha-La
なんだか切なくもいい話ですねー。
被科学的なものは違法…。
世の中から星占いも血液型占いも消えてしまいますね。

>世の中って、わからないこととかあやふやなこととか、そんなものがあるから素敵だと思うんですよね
まさにそうだと思います。
2014.11.01 16:30
きりぎりす
なるほど法律と科学ですか。面白い点に着眼しましたね。

確かにミステリー作家は皆オハコがあって,それしか書けなくなるし,読者もそれしか望まなくなる。
横溝正史の金田一耕助と近親相姦しかり,松本清張の犯人視点と破滅型しかり,最近では湊かなえの子供の殺意なんて分野もありますね。
捜査方法が確立してくると替え玉殺人をオハコにしている作家はもうお手上げ。
それを非科学的な営業は法律で禁止され,失職する易者と絡めるなんて心憎い構成です。

話しは少し逸れますが,その点,江戸川乱歩の密室殺人は凄いですね。
障子とふすまだけの日本家屋を物ともせず,密室殺人を完結させる着想はお見事としか言いようがありません。

ところで,こちらのサイトには初めてコメントさせて頂きますが,毎月小説をアップされているなんて驚異的です。
私なんか日々の出来事ですらまとめられないのに,物語を想像して毎月書き上げるのですから御見逸れ致しました。
以前私も物語を夢想し,ブログに載せたことがあります。
もしお時間が許せば,ご感想などをお聞かせ下さい。


http://satyrpoppy.blog95.fc2.com/blog-entry-85.html
2014.11.01 09:42

post comment

  • comment
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackback

trackbackURL:http://garakutakan2012.blog.fc2.com/tb.php/67-d1518ef5

新発売!

Kindle版

訪問者

来店中

現在の閲覧者数:

アルファポリス

投票ありがとう!

クリックありがとう

新着記事

カレンダー

08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

星新一に出会う

オススメ  SFファンタジー

おすすめDVD

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

ブロとも一覧