不器用

秋の夜。

町の外れの古い木造アパートの二階の一室。

青年は部屋の電気をつけるととぼんやり窓の外の夜景を眺めた。

(今日も仕事決まらなかったな・・・)
(まあ、また明日がんばるか・・)

少し首をうなだれて掌をじっと見やったところでノックの音がした。
「はい、どちらさまですか」
「お届け物でーす」
「はい、今開けます」
扉を開くと宅配便の配達員。
「こちら、小包ですね、ハンコかサインを」
「あ、じゃあサインで」

(何だろう・・何か注文した記憶もないし)

靴箱ほどの大きさの小包を開いてみる。
紙の箱の中には油紙のようなものに包まれた金属製のものが・・
(ん?・・カレーの食器?)

青年は金色に輝くモノを両手で持ち上げてみた。
ズシリと重い。

それは生まれてこの方一度も手にしたことがないにもかかわらず見慣れた品物。

「ハハ、魔法のランプだ」

青年は小さい頃から絵本の中でよく見た「見慣れた」ランプをためつすがめつ眺めてみた。

「擦ると魔人が出てくるんだよな」

青年はランプの腹の部分をゆっくりと擦ってみた・・・すると

「わっ!!」

一瞬白い煙が部屋中に立ち込めたかと思うと・・
そこに立っていたのは魔人ではなく小柄でやせた黒メガネの男だった。

「あ、あなた、だ、だれです・・本物の魔人?」
「この度は、わが社の製品をお買い求めいただき誠にありがとうございます」
「えっお買い求めって?」
「私、サクセスカンパニーから参りました召使いのマギーでございます」

男はあらたまり自己紹介をした。
タキシードのような服装だが、ボタンがひとつ掛け違えていた。
目はぱっちり、年の頃は30歳前後といったところだろうか、決して優秀なセールスマンには見えないが、どこかにくめない愛嬌のある顔に青年はひとまず気持ちを落ちつかせた。

「あのー、オレ注文とかしてないんですけど」
「えっ、今・・西暦何年でしょうか」
「ええと20XX年ですけど」
「あら、やっちまった」
「どういうことです?」
「ご注文は30XX年からでして・・私のミスでこちらにおじゃましちゃいました」
「ミス・・ですか」
「ええ、何しろ不器用なもので・・」

男はすまなそうに頭を掻いて見せた。

「では、おいとまいたします」
「あっ、ちょっと待ってください」
「何か」
「あなたは召使いなの?」
「ええ、ご注文に応じて召使いを派遣するのがわが社でございます」
「何でもできるの?」
「と、おっしゃいますと」
「たとえば・・魔法とか」
「お客様のご命令とあらば」

青年はその答えを聞くと天井を見上げてしばらくの間考えた。
偶然の間違いとはいえ、魔法を使える召使いなんて・・出来すぎだけど夢があるじゃないか。

「あのー、すみませんが、間違ったついでにオレが買う・・なんてことできないですか?」
「ええ、代金さえいただければ」
「おいくら・・ですか?」
青年は恐る恐る尋ねてみた、おそらく法外な値段か、未来の貨幣か、どちらにしても現在無職の自分には手が出ない金額だろうと思いながら。

「ええと・・この時代の金額ですと・・5万円になります」
「えっ、5万円・・」
今月の家賃をかき集めれば払えない額ではない・・青年は男に言った。
「購入・・します」

男は青年の顔を見ると心配そうに言った。
「そんな、衝動買いされてよろしいんですか?」
「ああ、よろしく頼むよ」
「かしこまりました、ご主人様」

なんだかいきなりの出来事に腹がへってきた。
「マギー、何か食事を出してくれないか、どうせなら豪華な料理がいいな」
「かしこまりました」

マギーはひとつ頭を下げると大きく右手を振って見せた。
部屋の中に煙がたちこめた次の瞬間・・

テーブルの上には豪華なフランス料理が・・
「な、何だい、これは」
そこにあったのはフランス料理・・の材料
鴨肉、西洋野菜、平目に帆立、確かに高級食材だが・・
「すみません、何しろ不器用なもので」
「その胸の星は何?」
マギーのタキシードの胸には星のマークが一つ。
「ああ、こちらは召使い学校の評定の印でございます」
「☆というのは優秀なのかい?」
「いえ、お恥ずかしながら、5つ星のうちの一つで・・・」
「劣等生だったの?」
「何しろ不器用なもので」
青年は不思議に怒る気も起きず、しおらしくうつむくマギーの姿に小さく吹き出してしまった。
「こちらにレシピがございます、これからお作りしますので」
「じゃあ、一緒に作ろうか」

青年とマギーはレシピに合わせてフランス料理を創り始めた。レシピは本格的で、スープはフォンドボー、煮込みに2時間、最終的に畳の上の卓袱台に料理が並んだのは3時間半後だった。

「ふー、ようやくだ、腹がペコペコだよ、マギーも一緒に食べよう」
「ありがとうございます、それではお言葉に甘えて」
「乾杯!」
「乾杯でございます」

二人は白ワインで乾杯すると料理にナイフを入れた。
「美味い!!こんなに美味い料理を食べたの生まれて初めてだ」
「さようでございますか」
「怪我の功名だな、時間かけて作ったからなおさら美味く感じるよ」
「本当に申し訳ございません、何しろ不器用なもので」

この後もマギーはすべて同じような調子だった。
オーダーメイドのスーツを頼めば布地とミシンが現れる。
壁に絵を飾りたいとリクエストすれば絵具と画材が登場する。
青年もすぐにそのことに気づき
「高級外車に乗りたい」
「豪華な家に住みたい」などと口にしかけてその言葉をあわてて喉元で止めた。
マギーはそのたびにすまなそうに言った。
「すみません、何しろ不器用なもので」

しかし、青年はマギーとのこの不思議な生活にいつしか楽しみを見出していた。
マギーが魔法で出してくれるものはいつでも「材料」ばかり・・そこで青年は時には一人で、時にはマギーと一緒に、完成まで作り上げていくことになる。こいつは大変だがなかなか楽しいのだ、特に完成させた時の喜びは苦労しただけあって何にも代えがたいものがあった。

スーツも縫い上げたし、靴も作った。
部屋の中の家具は六畳一間に似つかわしくないハンドメイドのものばかりである。

ある日、青年は無理を承知でマギーにリクエストをしてみることにした。
「マギー、オレ、金持ちになりたいんだ」
マギーは小さくうなずくと大きく右手を振った。
彼の手元にあったものは「求人票」

青年は翌日小さなオモチャ会社の面接におもむき、翌日には採用の知らせをもらった。
会社は右肩下がりの業績で金持ちになるどころか、いくら残業しても手当すら出ない状態だった。
社長は泣く泣く給料の高いベテラン社員をリストラし、青年を育て上げる捨て身の覚悟で採用したのだ。社員は社長を入れてわずかに5人という中小企業である。

青年は休みもなく働いた、しかし、確かに体はしんどかったが、そこには悲壮感もなければ不満もなかった。マギーとの生活の中で何かを作り上げる喜びを知っていたからだ。
青年は、新作のおもちゃの開発に日夜励んだ、入社したてだが何しろわずか5人の会社である、大事な仕事を任せてもらえることもやりがいだった。

やがて10年後。
青年が開発した新作のおもちゃが記録的なヒットを生み、会社は知らぬ者はいない一部上場の優良企業となる。そして、青年は先代の社長から直々に後継者に指名されたのであった。

社長に就任した夜、青年はとある高級レストランにいた。
テーブルの向かい側にはマギーの姿。

「マギー、今までありがとう、召使いとして、それから仕事の秘書としてよく支えてくれたな」
「めっそうもございません、すべてはご主人様の努力のたまものです」

ワインを傾けながら青年の目にあるものが飛び込んだ。

「マギー、今まで気づかなかったけど、そのタキシードの裏の☆は何だい?」

そこには銀色の星が5つ縫い付けられていた。

「こちらでございますか、これはご購入いただいたお客様からの評価でございます」
「えっ、じゃあ一番優秀ってことじゃないか」
「幸せなことに・・そうなるようで」
「でも、学校の成績は星一つだったし、魔法だってまともなものを出してくれたこともなかったよな」

マギーは自分でも少し首をかしげながらこう答えた。

「はい、不思議なもので、優秀な成績の召使いは何でもリクエストに応えるのですがなぜだかすぐに返却されてしまうのです。しかし、私はなぜだか長い間ご主人様につかわせてもらうことが多く、ご主人様が10人目なのですが、平均して一人20年ほど・・・」

「そうなんだ・・知らなかったよ」
「人間というものはどうやら何か苦労されるのがお好きなようで・・・」

青年は納得したように深くうなずきそして言った。
「そんなに優秀だったなんて、どうして最初に言ってくれなかったんだ」

マギーは照れくさそうに言った。

「何しろ不器用なもので・・・」


Genie-of-Fortune-03.jpg





※ 作品の画像の中には自分で撮影したもの以外にネット上からお借りしたものがあります、問題があればご指摘ください、削除したします。
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.08 2014 小説 comment4 trackback0

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尾道貴志
miss.key さんへ

こんにちは、神様のお話本当によかったです。
ショートショートの醍醐味はやっぱり「オチ」にあると思うんですよね。
「オチ」が上手くないとそれまでのストーリーが台無しになってしまう。
本当に落語と似ています。
書きすぎてもいけないんですよね・・

僕は風呂に入りながら「オチ」を考えています。

それでもって、ようやく一か月に一編くらいのペースでようやく降ってくる感じです。遅筆ですがこのままおつきあいくださると嬉しいです(^^)

コメントありがとうございました。
2014.09.08 22:57
尾道貴志
Sha-La さんへ

お褒め頂きありがとうございます。
照れちゃいます。
褒められると木に登るタイプなので嬉しいです。

感謝・感謝(^^)

お互いにいい作品を創るようにがんばりましょう。
2014.09.08 22:49
miss.key
 こんにちは。
 何でもかなえてくれるのではなく、育ててくれる魔法使いだったのですな。ある意味、こういう存在の方が楽しいかもしれませんな。何でも叶えてくれる様な存在だと何か裏が在りそうで怖いです。宝くじを当てさせておいて暴走トラックとか(笑
 尾道さんの物語は何時も優しさが溢れていますね。読んでてとても心地がいいです。
2014.09.08 22:03
Sha-La
こんにちは。
いやー…。
最初はケラケラ笑いながら楽しく拝読していたのですが、
最後に「おおー!」と何とも言えない感嘆のため息をつきました。
これは…何とも…。
これほどの作品を私も書けるようになりたいものです。
秀逸です。
とても良い作品を拝読させていただき、ありがとうございました。
2014.09.08 19:09

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