サポーター

「ただいま」
・・・
「といっても誰もいないか」
バイトから戻ってきた家の中はがらんとしていた。
大地はさすがに疲れたという面持ちで何回か首を回した。
「でも、頑張らなくちゃな」

かばんをリビングに置くと自分の部屋のドアを開け中に入る。
部屋の電気のスイッチを入れると「ジー」という微かな機械音。
「ただいま」
「オカエリ、ダイチ」
机の上に座っているピエロのソニオが語りかけた。
「ツカレテルノカイ」
「ああ、今日のバイトはハードだったよ」

ソニオはいわゆる人工知能を持った人形だ。
初めは二、三のあいさつ程度の言語しか持たないが、持ち主と会話をしていくうちに学習し次々と言葉を覚えていく。そういった意味ではオウムや九官鳥と似ている。決定的に違うのは、優れた分析力と言語回路がプログラムされており、高度な会話が成立するところだ。もっとも、そこはあくまでも機械、頭脳は0と1の乱数にすぎないと感じてしまえばそれまでのことだ、その瞬間に淋しさがふと心をよぎる。

「ミーチャンノオムカエカイ?」
「うん、7時までに行かないと」
「イッテラッシャイ」
「行ってきます」

「大地、これみんなからのプレゼント」
目の前には野球部の三年生の仲間たち10人とマネージャーのユキ、代表して大地の女房役だった伸吾から手渡されたのがソニオだった。
「何をあげようかみんなで考えて、迷って、最後はユキに考えてもらったんだ」
「ユキが・・」
「大地君、一人でいる事もこれから多くなるかもしれないから」
ユキは涙をぽろぽろ流しながら大地を見た。
「ソニオってポルトガル語で夢って意味なんだ、俺たちみんな、お前に夢をかなえてほしいんだ、お前がいなかったら俺たちせいぜい3回戦止まりのチームだった、でもお前のおかげで甲子園を狙えるところまで来られたんだ」
キャプテンの中西が続ける。
「最後の大会をお前と戦えないのは本当に残念だ、でも俺たち精一杯頑張るから応援してくれ」
「ありがとう」

高校三年生、最後の夏、甲子園の地区大会を前に湯田大地に悲しい知らせが飛び込む。
トラックドライバーの父の事故、中三の時に母を病で亡くしてから3年間、野球に打ち込めたのも父の不器用だが熱心なサポートのおかげだった。夜も遅いのに必ず朝、大地に弁当を作って持たせた。
「おお、今日のドカベンだ、しっかり食えよ」
「サンキュー」
「よし、ミオ、行くぞ」
その後4歳になる妹のミオを保育園に送り届ける、お迎えは大地の仕事だ。

その父が事故で意識不明になった。
大地は悩んだ末に高校を休学、バイトをしながら父の看病と妹の世話をすることを決意した。

「おやすみなさい・・おにいちゃん」
「おやすみ」

「コレカラトレーニングカイ」
「ああ、自分にやれることはこれくらいだからな」
「エライナ、ダイチ、プロヲメザスンダロ」
「春の大会の頃はスカウトの人がたくさん見に来てくれたんだぞ、今は誰も来ないけどな」
「ダイチナラ、キットダイジョウブ、ユメガカナウヨ」

バイトから帰る夕刻の6時頃、そしてミオを寝かしつけた後の夜、その日の報告を兼ねて大地はソニオと「会話」をした。
いつしかそれが日課になった。

仲間たちは惜しくも地区大会の準決勝で敗退。

「負けちゃったよ」
「クヤシイナ、デモクイハナイゾ」
「どうしてわかる」
「ヤルダケヤッタラクイハノコラナイ」
「そんなこと教えたっけ」

運送屋のバイトで仕事をしくじった。

「今日はマジでへこんだ・・」
「ゲンキダセ、ダレダッテシッパイスルサ」
「給料減らすって」
「ハッパカケテクレタンダ、キビシサモアイジョウ」
「お前、人間以上にすごいこと言うな」

九月 新学期 でも経済的に復学はできない。
父は小康状態を保っている。

「やっぱり学校戻れそうにないや」
「オトウサン、ヨクナルサ、ソウシタラミンナトイッショニソツギョウダ」
「学校がないとやっぱり淋しいな」
「ソニオガイルジャナイカ」

風邪をひいたらしい、熱がある。

「きつい、きつい」
「スグネナキャダメダ、キョウハトレーニングキンシ」
「いや、それだけは自分に課したノルマだからな」
「ムリスルナヨ」

そんな日々が半年ほど続いた。

11月のある日。
バイトから帰ると家の前に誰かが立っている。
「湯田大地君ですね」
スーツ姿の男が近寄ってきて話しかけた。
どこかで見覚えのある気がしないでもない。
「は、はい」
「プロ野球 バンディッツの佐竹と申します」
「プロ野球?」
「今日のドラフト会議で君を指名させてもらいました、指名順位は8位、前もって挨拶をしなかったのは申し訳なかったが、チーム事情で指名できるか五分五分だったもので、ご容赦願いたい」
佐竹は名刺を渡し
「あらためて、学校にご挨拶にうかがいます」
大地は驚きとともに何が何だかわからない戸惑いの中にいた。
(ドラフト・・俺が?)
(そういえば・・あの顔・・)
(思い出した、春先よくグラウンドに来ていた・・スカウトだったんだ・・・)

夜、ミオを寝かしつけた後、大地は表に出ていつものトレーニングをし、シャワーを浴びて部屋へ入った。
真っ暗な部屋、机の上のライトを点ける。
ジーという微かな機械音。

「ソニオ・・報告があるんだ」
「ナンダイ?」
「今日、プロのスカウトの人が来たんだ、ドラフトでオレを指名してくれたんだ」
「シッテルヨ」
「えっ」

ソニオの声が変わった。
いつもの聞きなれた機械音じゃなかった。
「おめでとう・・大地」
涙声だ。
「おめでとう!!」
その声の後ろから大勢の歓声が・・
「もしかして・・伸吾?」
「大地・・気を悪くしたらすまん・・みんなでお前を励ましたくって・・」

(そうか・・そうだったのか・・)

「ユキは1日も欠かさず毎晩・・」
「じゃあ、オレの言葉・・全部聞かれてたんだ」
「ああ、部屋の電気がつくとセンサーが感知してみんなのスマホに連絡が入るようにしたんだ」
「恥ずかしいな」
「すまん・・・怒らないでくれ」

大地の胸に熱いものが込み上げてきた。

(怒ったりするものか・・)
(オレは一人じゃなかったんだ・・)

大地は両手でソニオを持ち上げる。

(みんな、自分の受験勉強で忙しいはずじゃないか・・)

「ばかやろう・・ばかやろう・・お前たち、本当にばかやろうだ・・」

大地はあふれる涙を拭うことなく、ソニオを力いっぱい抱きしめた。

「おめでとう!!」
「大地!おめでとう!!!」
「やったな!プロ野球選手だぜ!!」
「学校、戻れるよな!」
「おめでとう!!」

大地の胸のあたりから、くぐもった何人もの歓声がいつまでもいつまでも部屋の中に響いていた。


ピエロ






※ 作品の画像の中には自分で撮影したもの以外にネット上からお借りしたものがあります、問題があればご指摘ください、削除したします。










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.14 2014 小説 comment6 trackback0

comment

尾道貴志
ポール・ブリッツ さんへ

ごもっともです(^^)

究極のプライバシー侵害ですからね。

そこは「物語」ということでご容赦ください。
2014.08.17 00:51
ポール・ブリッツ
これが野球やその他に関する弱音だったからいいようなものの、この年頃の普通の青年男子がプライベートでなにを考えていたかを思い出すと、こんなことされたら絶交ものだろうなあ、と読んでて思いました(^^;)

わたしがこんなことをされたら恥辱のあまりもだえ苦しんでトラウマになりそうです(^^;)
2014.08.16 20:45
尾道貴志
Sha-La さんへ

泣いていただけるなんて・・
僕もうれし泣きです(>_<)

ハートウォーム系のお話は書き終えて気持ちがいいです。

刺激が少なくて「つまらない」という人もいると思いますが、自分が気持ちよくないと書いていても充実感がないですからね。

何年か前に映画化された有川浩さんの「阪急電車」に影響を受けています。

どうもありがとう(^^)
2014.08.15 15:34
尾道貴志
miss.key さんへ

「激励の言葉」感謝します。

そうですか・・大地はシーズン最高打率を記録するのですね(^^)

大地のその後が書きたくなりました。

どうもありがとう。
2014.08.15 15:27
miss.key
ガンバレ大地。土俵にさえ上がってしまえば一位も八位も同じだ。
これが後に史上最高のシーズン打率をマークした男のプロ第一歩であった。
ところでお父さん、早く回復すると良いね。
2014.08.15 08:07
Sha-La
こんばんは…。
泣いちゃいましたよ…(>_<)
人工知能とはいえ、なんて頭のいい人形なんだ…
と思って読んでいたら…。

ドラフトもすごいけど、そんなこと関係なく
バイトで失敗した時も、風邪をひいた時も
ずっと励ましてくれていたんですね。

なんていうか、なんていうんだろう…
「仲間意識」とか「仲間の結束感」とかそう言うと簡単なんですが、
会えないところで、見えないところで、ずっと応援してきた
仲間たちもすごいし、それだけの人望を持つ大地くんもすごいと思います。

涙が止まらないです(>_<)
2014.08.14 23:53

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