おそば屋 「来来軒」

来来軒


「ともく-ん、今日のお昼は出前をとるわ、何がいい?」

 夏休みの午前11時半、ママがぼくを呼んだ。水曜日の午前中はママがテニススクールに行く日だから、コンビニでお弁当を買ってきたり、こうして何かを頼んだりすることも多い。ぼくは宿題の絵日記をちょうど書き終えたところ、小学校に入ると宿題があるんだって初めて知った。でも、ぼく絵はわりととくいだから、今日はきれいに咲いたあさがおを描いたんだ。

 「ぼく、来来軒のラーメンがいいな」
 「あら、また、ほんとに好きなのね、OK」

 ぼくが来来軒のラーメンを好きなのには2つ理由がある。ひとつはラーメンが本当においしいこと。おしょうゆ味で、なるとがのっかってる。何でも「昔ながらの」味なんだって。
 それからもうひとつは出前を届けてくれるお兄さんがとてもやさしくていい人なんだ。

 「こんにちは!来来軒でーす!」
 「お待ちしてました」
 お兄さんは 中華そば 「来来軒」  と大きな赤い文字の書かれた岡持ちからていねいにラーメンを取り出した。
 「はい、ラーメン2つ、いつもありがとうございます、ともくん、はい、これは今日のお土産だよ、さかあがりがうまくなるぼうし、紙製だけどね」
 「いつもすみませんね、ほら、ともくん、お礼言って」
 「どうもありがとう」

 お兄さんはスマートで見た目は高校生ぐらいに見える、短いコック帽に白いコック服姿でやってくる。そしていつも、ぼくにおみやげをくれるんだ。このあいだは、自転車の補助輪がなくても乗れるようになるお守り、その前は、おりがみを上手に折るのに役立つ「くるみ」いつも変わったものばかり、でも、お兄さんのお土産を使うとふしぎに上手く出来るようになるんだ。

 それはある日の夕暮れ時だった。
 ぼくは、近くに住むおじさんの家へおつかいに行った帰り。
 空に今まで見たことがないくらい真っ赤な夕焼けが広がって、道を歩く人たちは長―い影を伸ばしている。まるで大きな影絵を見てるみたいで、とってもきれいだった。

 その時、夕日を反対側から受けて通りすぎる影絵の自転車、影は長く伸びてぼくのほうに自転車がせまってくる。乗っている人も真っ黒い影、でも、何か持ってるぞ。

(おかもちだ・・来来軒のお兄さんだ・・)

 なぜだかぼくは、ゆっくりと走る自転車を追いかけたくなった。
 100メートルくらいかな、気が付かれないように走って追いかけていくと、自転車はお店の前に止まった。
 お兄さんは自転車を止めると、店のガラスの引き戸を開けて中に入っていった。

 「来来軒」 店の看板も夕日を受けて真っ赤に輝いていた。

 (お店、ここなんだ、初めて見た・・)

 店には灯りがついていない、外から見る限りは真っ暗に見える。
 (変だな?お休みなのかな)
 (あれっ、戸が開いてる)
 ぼくが近づくと、先ほどの引き戸が開いたままになっている、奥にぼんやりと灯りらしい光が。
 ぼくは、どうしてものぞきたくなった、心の中で「ごめんなさい」と言ったあと、こっそりと店の中にしのびこんだ。

 中に入って引き戸をゆっくりと閉めた時、ぼくは思わず「あっ!」と声を上げてしまった。

 そこは見たこともない景色だったんだ、あたり一面が星でいっぱい!まるで宇宙の中にいるみたいでぼくは目が回りそうになった。いつかママに連れて行ってもらったプラネタリウムの何百倍もの星が光またたいている。
 ぼくは思わず目を閉じて、それからゆっくり開いてみるとようやっと目がなれてきた。

 渦巻く星の先に黒い人影がぼんやりと見えた。
 影は2つ、よく見ると銀色に光る宇宙服みたいな姿をしてる。

 「おつかれさま、今日はどうだった?」
 (女の人の声だ)
 「うん、今日もたくさん資料が手に入ったよ」
 (お兄さん・・)
 「そう、よかったわね、この時代の研究ももうすぐ完成ね」
 「そろそろ帰って資料をまとめないとね」
 「今日はともくんに何あげたの?」
 「さかあがりのおまじない」
 「大丈夫なの、いろいろあげて、歴史が変わったりしない」
 「大丈夫さ、別に何の効力もない、ただの暗示だもの」
 「気になるんでしょ」
 「うん、何しろぼくのひいひいおじいさんだからね、将来の大物理学者だ」

 (ぼくのこと話してる?・・ぶつりがくしゃって・・何の事だかぜんぜん・・)

 ぼくは息をこらしてお兄さんたちの話を聞いていた、でも、あまりにも夢みたいな話に頭がこんがらがって、なぜだかついしゃっくりが出てしまった。

 「ヒック!」

 その時、奥にいたお兄さんがぼくのほうを振り向いた。そして、目が合ったんだ!

 ・・・・・・

 「ともくん、大丈夫かい」
 気が付くとぼくは、お店の中でお兄さんの手に抱えられていた。
 いつもの白いコック服にいつものやさしい笑顔のまま。
 宇宙空間はどこにもない、灯りこそついてないけどそこはただのおそば屋さんだった。

 ぼくは思わずお兄さんに聞いた。

 「お兄さんって・・・宇宙人なの?」

 お兄さんは笑って言った。

 「何言ってるんだい、ともくん、ねぼけてるんじゃないか、疲れて店で寝てたよ」

 (ゆめ・・だったんだ)

 「そうだよね、そんなはずないよね」
 「ひとりで帰れるかな」
 「うん」

 ぼくは、店の外に出た。
 外はすっかり暗くなっていた。

 ぼくは家に向かってゆっくりと歩き出した。

 その時・・お兄さんの出前の自転車がぼくをゆっくりと追い越していった。

 お兄さんは自転車に乗りながら振り向くと僕の顔を見てウインクをした。

 真っ暗な道を自転車が遠ざかろうとしている。

 ぼくは、そのとき見たんだ!

 (あれ・・お兄さんのおかもち・・何だかいつもとちがう・・ 字がへんだぞ)

 暗闇の中、銀色に光る岡持ち

 そこにはいつもの赤い文字とちがい、幻想的に青く光り輝く文字。



      中華そば 「未来軒」 

タイムトンネル











※ 作品の画像の中には自分で撮影したもの以外にネット上からお借りしたものがあります、問題があればご指摘ください、削除したします。








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.22 2014 小説 comment4 trackback0

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尾道貴志
miss.key さんへ

小さいころの外食は本当にドキドキでしたね。

私も近所の商店街にできたレストランに初めて連れて行ってもらった時は心がときめきました。年に二回くらいの割合で出かけてはハンバーグステーキを食べました。もちろんファミレスではありません。

私の夢はまだ食べかけで小説の出版が夢です。公募では落選続きですが、こうしてブログで読んでいただけることで、めげずに挑戦を続けていけるのです。

どうもありがとう(^^)
2014.06.25 23:46
miss.key
 こんにちは。
 ラーメン屋の兄ちゃんが運ぶのは未来の夢だったんでしょう。ラーメンはついでね。
 昔、食堂のラーメンと言えば、外食などあまりしなかった私にはごちそうでした。あのころの夢は・・・食べちゃったので残ってません。orz
2014.06.23 13:00
尾道貴志
ユズキ さんへ

いつもいつもあたたかいコメントありがとうございます。
とても励みになります。
「来来」の文字が「未来」に似てるなあ という発見から10年あまり
長年温めていたネタがようやく作品になりました。

遅筆ですが、これからもよろしくお願いします(^^)
2014.06.23 09:28
ユズキ
こんばんわ~(*´∀`*)

新作待ってました~!

今回はともくんが羨ましく思ってしまういいお話でしたね。
遠い未来から研究と資料集めに来た子孫が、ご先祖にちょっとした励ましを送る光景。
おまじない効果って意外に発揮されますよね(´∀`)
歴史は変わらなくても、この些細な励ましが、実はその未来を作っていた、なんてありそうですw

真っ暗なお店に忍び込んだともくんのシーンには、ちょっとドキリとしちゃいました。何もされなくてよかった(;´∀`)

最後に見せた未来軒の文字も、きっとともくんになにかを残して行って、偉大な将来像に結びついたのかもですね~。

読んでいたらラーメン食べたくなりました><
今回も面白いお話でした(*´∀`*)
2014.06.23 01:57

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