アシスト

「おはようございます!」

夏美はいつものようにペコリとおじぎをしハンカチを取り出した。

青い空と白い雲、遠景には緑の島々、眼下に見える港町はまるでミニチュアのようだ。
海を行く船の航跡が夏色のキャンパスに白くアクセントをつける。

学校へと続く下り坂の途中に小さな道祖神がたたずんでいる。
男女のペア、双体道祖神というのだそうだ。

「今日もよろしくお願いします」

小学校4年生の時、父が交通事故で突然夏美の前から去ってしまった。

悲しみに泣き崩れていたある夜、夏美は夢の中に道祖神を見た。
二人の神様は交互に夏美に語りかけた。

(お父さんは空の上からずっとあなたのことを見守っているよ・・)
(もう悲しまなくていいのよ・・)

「お母さん、ゆうべ、道祖神さんが夢の中に出てきたの」
「そう、それで何か言ってくれたの?」
「うん、お父さんは空の上にいますって」
「お母さんもそう思うわ、感謝しなくちゃね」
「うん!」

水筒に入れてきた水をかたあとハンカチでやさしく全身を撫でる。
あれから5年、今では中3になった夏美がずっと続けている毎朝の日課だ。
季節が冬になれば水筒の水はあたたかいお湯になる。

いつものように手を合わせて立ち去ろうとしたとき、夏美の目に何か光るものが飛び込んだ。
(何かしら?)
夏美は道祖神の足元にある、その光るものをそっと手にした。
(コイン?)
外国のコインのようだ、夏美にはどこの国のものかわからない、表には優しげな女神の刻印が、裏を返すと数字の「1」
(日本なら1円硬貨ってことね)
夏美は少し考えた末にコインをハンカチにくるんで夏の制服のスカートにしのばせた。

放課後

「ねぇ、夏美、決心した?」
「えっ、何を」
「何とぼけてるの、あたしにはお見通しよ、高・橋・君!」
夏美の頬が赤くなる。
「好きなんでしょ、告白しちゃいなさいよ」
「もう、はる、そんなんじゃないから!」

青い空と白い雲・・蝉しぐれが降り注ぐ。

「ほら、うわさをすれば・・」
石畳の階段を下からゆっくりと登ってくる少年の姿が見えた

「じゃ、がんばってね、あたしは消えるから」
「もう、何言ってるの!」

はるが駆け足で横道へと消えた後、夏美は胸をドキドキさせながらさせながら少しだけ足を緩める。
(そんなことできるわけないじゃない・・)
あと数分で追いつかれそうな距離に夏美の胸はさらに鼓動した。
汗をぬぐおうとポケットに手を入れたとき、夏美の手に思いがけず冷たい感触が
(あっ・・今朝のコイン・・)

次の瞬間
コインは夏美の意思とは無関係に指の間をすり抜け石段を転がり落ちた。
「あっ!」
コインは止まることなく踊るように落ちていく、そして少年の足元に・・

コインを拾い上げた少年はそれを手にした後わずか5mほど先の夏美を見つけた。

その時、少年の頬がかすかに上気したように見えた。
少年はゆっくりと夏美に近づく。

「高橋君」
「北川さん・・」

目が合うと二人は互いにはにかみながらうつむいた。
「これ、北川さんの?」
「は、はい」

少年はしばらく何かを考えるように沈黙した、そして
「このコインちょっとだけ借りるね」
「えっ・・はい」

少年はコインを右手の親指に乗せて力いっぱい空に向けて指ではじいた。
夏美は咄嗟に目で追う。
まるでスローモーションのように感じた。
コインは夏の光を浴びてキラキラと輝きながらゆっくりと小さな音を立てて石の上に落ちた。
女神の顔が上を向いた。

少年はゆっくりコインを握りしめると深呼吸をひとつ・・そして

「北川さん・・僕、君のことがずっと気になってたんだ」
「えっ」
思わぬ言葉に夏美は一瞬言葉を失う。
「今、偶然会って、決めたんだ・・コインの表が出たら、自分の気持ちを伝えようって」

真っ青な空の下、蝉しぐれの音だけが響く

「ありがとう・・あたしも高橋君と話してみたかったんです・・」

少し傾きかけた太陽と蝉しぐれの中、二人の黒い影が並び、ゆっくりと階段を上っていく。

「じゃあ」
「うん、また明日」

一人になった夏美は周りを見渡し誰もいないのを見届けるとスキップで走り出した。

(こんなことってあるのかな、コインが転がったおかげね)

夏美はポケットからコインを取り出してみた

(あっ!!)

掌に載せた金色のコイン

表に・・女神

裏に・・・・・・・・女神



道祖神2










関連記事
.25 2014 小説 comment4 trackback0

comment

尾道貴志
ユズキさんへ

待ってくれている人がいるなんて・・
嬉しくて本当に幸せです(^^)
ありがとうございます。

青春は帰ってこないから美しい!

ノスタルジックな雰囲気の作品は自分で書いていて自分でウルウルしています。

映画もいいですね、先日鑑賞した「青天の霹靂」はとてもいい作品でした。

おススメですよ。
2014.05.27 01:17
ユズキ
おはようございます(*´∀`*)

新作待ってました!

いいですね~こういう出会い方。
日頃の行いが引き合わせてくれたんですねコインという手を使って(・ω・)!

お父さん公認のお引合せなのでしょうか(^ω^)

甘酸っぱい思春期の香りがするお話でした~。
2014.05.26 04:52
尾道貴志
miss.key さんへ

結末が読まれちゃいましたか?

道祖神を調べてみるとその画像の多くが双体道祖神なのに驚きました。今まで全然知らなくて、お地蔵さんと一緒だと思っていました。

そのペアの姿からイメージが湧いてきたのが今回の話です。

コメントありがとうございました。
2014.05.25 23:56
miss.key
 こんにちは。
 これはもう、コインを拾った時点で運命が決まっていたのですな。ええはなしやぁ。
 が、これが彼の作戦でなかったとどうして言えよう。きっと道祖神とグルになって・・・。まあ、いいか。ええはなしやぁ。
2014.05.25 09:43

post comment

  • comment
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackback

trackbackURL:http://garakutakan2012.blog.fc2.com/tb.php/61-f1df704c

新発売!

Kindle版

訪問者

来店中

現在の閲覧者数:

アルファポリス

投票ありがとう!

クリックありがとう

新着記事

カレンダー

10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -

星新一に出会う

オススメ  SFファンタジー

おすすめDVD

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

ブロとも一覧